出展ごとに新たな一手を打ち出し
建築業界を超えて
新ジャンルへ販路を開拓!
日本固有の屋根文化のシンボルともいえる伝統的な鬼瓦の造形技術とCADや3Dスキャナなど最新技術を融合させて開発した自社ブランド「GaRock(ガロック)」で、新たなジャンルの商品開発に挑んできた有限会社岩月鬼瓦。伝統的な建築資材という限られた業界の垣根を超えて、「中小企業総合展 in Gift Show」への出展を足がかりにアクセサリーやインテリアといった異なるジャンルへの進出を果たしてきた背景に迫るべく、日本三大瓦のひとつ、三州瓦の産地である愛知県高浜市の同社工房を訪ねました。
2Dから3Dを生む
鬼師の立体造形技術を最先端技術へ昇華
新事業「GaRock」で
新たな業界への進出を狙う
「実は、ギフトショーには単独出展も合わせると2014年から5回ほど出展してきました。出展するたびに打ち出す商品、ブースのデザインやロゴなどの表現を変えています。ギフトショーは新しい販路を開拓する場でありながら、瓦という商品にどれだけ可能性があるのか、その手応えを探るマーケティングの機会でもありますね」。そう語るのは同社代表の岩月秀之さん。経営者でありながらご自身も代々鬼師の技を受け継いできた鬼瓦職人です。
そもそも「GaRock」は、斜陽産業である瓦業界で生き残るために、企業価値を高める取り組みとして始まったプロジェクトだったといいます。
「鬼師というのは、立体物を粘土で表現するクレイモデラーとしての特殊技術を持っているのが強みなんです。古くから正面形状の二次元の型紙一枚で鬼瓦の複雑な三次元形状を作ってきました。それを最新機器で何とか効率化できないかと考えてCADや3Dスキャナを導入し、鬼瓦の形状を3Dデータ化することに成功。試行錯誤を重ねるうちに、その3Dデータを鬼瓦だけでなく、別の商品に展開する新たなビジネスモデルの可能性に気付いたんです」と岩月さん。こうして、3Dデータをベースに、アクセサリーやインテリア用品など、建築資材を超えた商品開発への挑戦が始まりました。
小さな企業による
集合体の強みを実感する
「中小企業総合展」のパッケージ出展
2014年に商品化したのは、鬼瓦を象ったシルバーアクセサリーでした。まずはギフトショーに単独出展し、それなりに反響はあったものの、出展料をはじめ9㎡もあるブースのディスプレイなど1回の出展だけでもかなりコストがかさみ、単独出展を続けることには難しさを感じていたといいます。そんなとき「中小企業総合展」のことを知り、2016年から3年連続での出展につながりました。
「中小企業総合展1年目では、シルバーアクセサリーを出展し、銀座や浅草の老舗宝飾店や大手百貨店など多くのバイヤーさんから声がかかりました。2年目はアルファベットの文字を象った『GaRock The Brick』を新商品として出展したのですが、これも注目度は高かった。私どものような小さな会社に驚くほど数多くの大手の企業からお声をかけていただけて手応えを感じましたね」。多様な業界の来場者からの熱い視線を実感したという岩月さん。出展者そのものも多岐にわたる業界の集合体である「中小企業総合展」の集客力は、中小企業にとって大きなメリットだったと語ります。
実践的な出展ノウハウを
学べるセミナーで
プレゼンテーションのスキルを
ブラッシュアップ
また会期前に開かれる出展者説明会でのセミナーでは実践的なノウハウや知識を得ることができて、初心者にとっても展示会の本番に役立ったといいます。
「接客の仕方やブースの作り方などは大いに参考にさせていただきました。なかでも“ブースごと買わせるディスプレイ”というバイヤー目線のアドバイスは『GaRock』のブースにも応用しています。取り扱い商品が多くなると、せっかく出展するのだからと展示を盛りだくさんにしてしまいがちですが、1アイテムに絞って展示することは大事だと感じました。同じ『GaRock』の商品でもシルバーアクセサリーとアルファベットの文字ブロックでは、ロゴやディスプレイのテイストも変えているんですよ。商品のイメージやターゲットがそれぞれに違いますからね。出展商品に合わせてブースの世界観を打ち出すことで、商品に合った業界に狙いを定められるという効果もあります」
こうして、建築業界の瓦一筋で請負仕事に撤していた同社が、新商品を次々と開発しながら、展示会への出展を重ねることによって、ファッションやインテリア業界へ徐々に販路を拡大してきました。継続的に出展することによって、さまざまな業界へ人脈も広がったといいます。
新商品出展が
メディアに取り上げられ話題沸騰!
瓦の伝統を塗り替えながら
次の可能性を拓く
鬼瓦という限られたマーケットから、徐々にチャネルを広げてきた同社が次に手掛けたのは招き猫の置物「招鬼猫」。日本でも珍しい女性鬼師である岩月久美さんがクレイモデラーとして取り組んだ新たな商品です。
2018年2月の中小企業総合展ではこの新商品を全面に押し出して出展。参加企業100社から10社の商品が選出される特別展示にも選ばれ、注目を集めました。さらに会期中に、テレビ東京の経済ニュース番組WBSの「トレンドたまご」の取材を受けてTV放映されたことで大きな反響を呼び、早くも「招鬼猫」は3カ月待ちという人気ぶり。日本全国から約5000社の新商品が集まるギフトショーは当然各業界のメディアからの注目度も高いイベント。そのなかから実際に記事として取り上げられるきっかけとしても、中小企業総合展が少なからず機能しているようです。
「ギフトショーに出展することで、メディアに取り上げられるチャンスに恵まれたことは大きな収穫でしたね。出展そのものもそうですがメディアに紹介されることで、企業価値を高められたように感じています。一見、鬼瓦と異なる業界へ手を広げているようですが、こうして新事業で注目を集めることによって逆に本業である『鬼瓦』の価値を改めて高めていきたいですね」
バイヤーの生の声を吸収し
次へ活かす
販路開拓+マーケティング
の場としても活用
今後も中小企業総合展には継続して出展したいと考えています。鬼師の強みは開発スピードが早いということ。人の手で造形物を作るので思い立ったらすぐに試作が可能なんですよ。驚くような秘策もあって、今も新しい商品を模索しています。展示会の場ではこうした新商品に対するバイヤーの生の声を直接聞くことができるので、とても有意義ですね。今後の展開を楽しみにしていてください」とまだまだアイデアがあふれ続けるご様子の岩月さん。
販路開拓にとどまらず、“市場のニーズを吸収するマーケティングの場として活用しながら新商品のブラッシュアップに活かす”という好循環を生み出しているようだ。次なる一手が中小企業総合展という舞台でどんな反響を巻き起こすのか、今後の展開にますます期待が高まります。
[企業DATA]
有限会社岩月鬼瓦
- 所在地
- 愛知県高浜市田戸町7-3-43
- 創業
- 1912年
- 事業内容
- 神社仏閣用鬼瓦製造/鬼瓦製造技術と最新3D機器の技術によるシルバーアクセサリーやインテリア用品製造/手作り鬼瓦の3Dデータ化及び3D DIVISION
- URL
- http://www.e-oni.com/
- ナビゲーター : 中小機構 販路支援部 嶋田俊也
- 取材・文 : スクーデリア 瀬上昌子